震災20年に寄せて

「1995から ―NPOの20年」 磯辺康子

 

当時はまだ、ボランティアが「奇特な人のすること」と思われていた。「NPO」という言葉はまったく市民権を得ていなかった。
阪神・淡路大震災が起きた20年前のことだ。しかし、その災禍をきっかけに、ボランティアやNPOは日本社会に定着し、特定非営利活動促進法(NPO法)という法律が生まれた。その後、税制優遇の対象となる認定NPO法人の制度も導入され、NPO法人の数は今、全国で5万を超える。
こうして振り返ると、20年の変化は非常に大きい。それは、震災の影響だけではない。震災が起きた1995年は日本社会の転換期でもあった。オウム真理教による地下鉄サリン事件が、この社会のゆがみを浮き彫りにし、ウィンドウズ95の登場を機に、世界と瞬時につながるインターネットという手段が広まった。携帯電話が普及し、私たちの暮らしにそれまでとは何か質の違う時空が現れ始めた。その後の金融危機では、大企業や銀行が次々に破綻し、日本社会の足元が大きくぐらついていることを誰もが実感するようになった。
思えば、その「ぐらつき」がNPOやボランティアをこの国に定着させたのではないか。大企業に勤めているから終生安泰、という時代は終わった。大災害や無差別大量殺人で一瞬にして平穏な暮らしが奪われると知った。高度経済成長時代から引きずってきた価値観が崩れ去り、「儲ける」ことより「社会の課題に向き合う」ことに重きを置くNPOの存在に光が当たるようになったのは当然の流れかもしれない。同じ時期に、パソコンや携帯電話という小さな機械で人とつながり、共感を広げることも可能になった。
「定着期」を過ぎ、日本のNPOは今後、どう変化していくだろうか。今のところ、将来像はよく見えない。社会を変革する本当の力を持ち得るのか、よく分からない。それほどに、NPOの歴史はまだ浅い。
これまでNPOの定着期を作り上げてきた第一世代が、そろそろ世代交代の時期を迎えている。第一世代は日本の成長期を知り、その中で、社会の矛盾や硬直化した既存の仕組みに対して声を上げてきた。一方で、これからNPOを引っ張っていく世代は、ぐらついた後の日本で育ってきた。既存の仕組みはすでに崩壊し、社会の矛盾があらゆるところに拡散してつかみどころがなくなっている。変化のスピードもどんどん速くなっている。それだけに、NPOも自らの役割や存在意義をしっかりと見つめなければ、社会の混沌の中に吸い込まれていってしまう。
歴史を積み重ねて、垢をまとっていくか、なお新たな世界を切り開いていくか。その課題は企業でもNPOでも同じだろう。次の20年、NPOは黎明期とはまったく違うハードルを越えていかねばならない。