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   NPOによるアドボカシーフォーラム

「市民運動は政策にどう影響をあたえたのか」
〜藤前干潟を守る会 辻淳夫さんのお話(要旨)を伺って〜

寄稿:フォーラム参加者 武藤貢

 去る3月5日、市民活動センター神戸ほか神奈川、宮城のNPOが三者共同で開催する標記フォーラムに参加した。名古屋の藤前干潟を守るための活動を長年にわたり継続され、名古屋市のゴミ埋め立て計画を撤回させたという運動について、「藤前干潟を守る会」の辻淳夫さんのお話を伺った。その感想を記してみたい。

 政策研究、政策提言を行っている集団は、世の中に多くある。また、市民の意見をまとめ、請願、陳情として行政や議会関係先に提出することも数多く見受けられる。しかし、それらはペーパーにまとめて発表するまで、或いは署名簿を関係先に届けて一件落着としていることが多い。自己満足の活動、行政の厚い壁にぶつかり退却・消滅という構図である。
 そのような中にあって、辻淳夫さんの「藤前干潟を守る会」は、干潟を名古屋市民全体の問題と位置付け、その解決のために積極果敢に行動し、目的を貫徹された。その行動力に敬意を表したい。

 政策提言は、その内容に新鮮で時代の先取り性があり、合理性があっても、それを行政の責任者に受け入れさせなければ、日の目を見ることはない。行政当局へ提言内容を受け入れさせるためにどうするかが最も大切である。そのために行政当局との交渉(ネゴ=Negotiation)が必要である。すべての活動はこのネゴを成功させるためにあると言っても過言でない。ネゴであるからには、戦略・戦術で相手に勝る必要がある。 → 下図参照

 藤前がなぜ守られたのか。それは行政の責任者が「その気になった」からである(活動を行った側から見ると「その気にさせた」となるが)。藤前の場合、行政の責任者がなぜ「その気になった」か。そのもっとも大きな要因は、世の中の価値観の変化、世論であったと思う。この場合は、環境保護の空気が日一日と高まってきた時期であった。「藤前干潟を守る会」は、主張の基軸を「渡り鳥のために」から「干潟の生態系を守る」に変え、さらに、「ゴミで大切な干潟をつぶさないで、ゴミ問題は人間が解決すべき」と代替案を提示してきたことで、多くの市民の共感を得られたのではなかろうか。

 次に、フィールドワークによる生きたデータと専門家の知恵を借りて勝負したこと。その戦いの場が環境アセスであったことも幸いしたと思う。環境影響評価の土俵から行政が逃げられなかったのである。そして、環境庁の厳しい意向が大きく影響した。このことは、名古屋市長・松原武久氏の著書「一周おくれのトップランナー」に書かれている。さらに、地元の意思が圧倒的な反対であった。これを無視して埋め立てをごり押しできなくなっていた。

 今回のようなフォーラムでは、問題を市民活動の面からしか見ない嫌いがある。しかし、相手のある交渉では、相手の立場、動きについても正しく見ないと、問題の本質を見誤る恐れがある。行政を動かす力学をよく知った上で、如何にすれば提言内容を行政に反映できるか、という高度な戦略が不可欠である。行政という絶大な権力を有するガリバーと渡り合う交渉術で、辻さんに学ぶところ大である。

 名古屋では、藤前の中止が決まってからゴミ減量の運動が展開された。これは、行政の不退転の姿勢と市民の知恵の集結で成功した。 私は1985年から15年間、仕事の関係で名古屋に住み、藤前もゴミの問題も身近なものとしてその推移を見てきた。99パーセントの確度で埋め立てが決まっていた藤前干潟が、180度方向転換され、完全に守られるのは奇跡に近いと思われた。その奇跡が実現した。大逆転である。

 藤前とゴミという極めて困難と思われた課題が、両立の形で解決されたのは、名古屋だけの成功でなく、これからの類似の問題に取り組む自治体、市民に大きな勇気と自信を与えたことが大きな成果であったと思う。

→ 特定非営利活動法人藤前干潟を守る会サイト


  2004.3.5 / ▲UP